鯉口ちゃん生きる

おかーちゃんの人生はおかーちゃんのもの

外でギャン泣きする娘にテンパるおかーちゃんの心理とは

最近美容室を変えた。

専属の保育士が常駐しており、施術を受けている間託児がお願いできる美容室に通っている。

産後しばらくは夫に娘を預けられる週末に時間を作って行っていた。それはそれで気分転換になってよかったのだが、先月、週末に予定が立て込んで夫に預けるタイミングがなく、かつ予定のためにどうしても美容室に行きたい時があった。平日に行くしかないが、登録してあるファミリーサポートに預けるのは通院などの時にしたい。そう、おかーちゃんとは美容室に行くときでさえ予定の調整や託児が必要な生き物。託児。たくじ……。

「美容室行くのにファミサポさんにはわざわざ預けないよ~子供と一緒に行ける美容室があってね~」 

友人のオタクおかーちゃんがそう言っていた。わたしはその話を聞いたとき、ベビーカーに乗せた赤子を横付けさせて施術を受け、有事の際には赤子の面倒を見るものだと思った。だがよく考えれば「託児」というサービスはある。よくよく考えれば、美容室にも「託児」があるところはある。あると思う。多分。都会だけのサービスではないと思う。友人のオタクおかーちゃんが暮らしているのは地方だ。

「この辺にキッズルーム付き美容室はあるだろうか、あるならばそれはどんなものだろうか……」

この土地に転勤で移り住んで4年、特に土地で友達を作らず、各地方に散っているオタク友達とインターネットでばかり遊んできたおかーちゃんには地元の情報を教えてくれる人もいないが、おかーちゃんはオタクなのでインターネットと検索は大得意である。さくさくと調べ、即日予約ができるところに当たりを付け、電話で問い合わせ、翌日に娘ごと飛び込んだ。このご時世、火急の電話で料金とサービスを問い合わせるなんて印刷所かキッズルーム付き美容室ぐらいだ。

そして以来、産後メンテナンスの行き届いていなかった髪の毛をなんとかするべく、そのキッズルーム付き美容室に通っている。ヘッドスパ、縮毛矯正と続き、次回はようやくカラーである。産後、抜ける抜けると言われた髪はほぼ抜けずに量が多いままだが、猛烈な修羅場の果ての脱稿後以上に白髪が増えたので、こいつをなんとかチャラついた髪色で染め上げねばならん。何故チャラついた色限定なのかと言うと、おかーちゃんは魂がヤンキーなので舐められるわけにはいかないと思っているからだ。

 

前置きが長いのは文章下手の典型。起承転結の起を丸々削除するとその小説は途端によくなる、といつだかtwitterで見たがまさしくそうだろう、ここまでが大変長い前置きであった。

「おかーちゃんはキッズルーム付き美容室に通って、毎回娘を保育士さんに預けているのだが」

これが導入の要約だ。さあ本題に行こう。

 

前回、3時間強の長めの施術をお願いした。つまり長めに娘をお預けした。6カ月の娘なので、授乳間隔的にはギリギリの長さだ(なお通っている美容室は母乳の場合、施術途中の授乳が可能で、うちのようにミルクだと調乳・授乳をしてくれる)。最近娘は授乳間隔が開いており4時間弱といったところ。「出かけに授乳してきたので多分大丈夫だろうけど、ぐずったらミルクあげてください」そう申し送りをした、それぐらいの託児時間だ。キッズルームには他に男の子が2人、ビギナーおかーちゃんにはやはり月齢は分からないが、娘よりは大きいだろう2歳未満ぐらいの子たちがいた。

そして娘はギャン泣きした。

施術開始2時間ぐらいの時だったか。外面のよい娘だが、眠かったのかなんなのか、とにかく泣いている声が聞こえた。キッズルームは施術台の背面にあり、ガラス張りなのだがわたしの席からは様子が見えない。が、不思議なもので自分の子の泣いている声は聞き分けられる。娘と、娘ではない子の泣き声が聞こえる。これは余所の子につられたパターンか。まあ分からない。だが泣いている。

めちゃくちゃ落ち着かない。

「あ~泣いてますねえ、さっきまでご機嫌で遊んでたんですけどねえ~」

ちょいちょいキッズルームの様子を見ては報告してくれていた美容師さんが苦笑いでそう言った。

も、めっちゃくちゃ、落ち着かない。

 

美容室のケープを着て、施術台に座り、あるいはシャンプー台で横になりながら、身動きの取れないわたしは、この落ち着かないの正体について考えた。それは

「我が子が泣いている、落ち着かない、泣き止ませなきゃ」

だったのだが、もっと正確に言うと、

「我が子が泣いている、泣き止ませろと世界が言っている気がして落ち着かない、おかーちゃんは施術なんて仕事でもない自分のことをしてないで泣き止ませなきゃ、無料の託児なんだから特に」

なのであった。

 

うーん呪いだな、と、しみじみ思った。それが呪いだと理解しているのに、しっかり呪われているな、と思った。もちろん心配する気持ちはあるのだけど、それとは違うところに強迫観念がある。それが呪いだな~と、「このメンソールシャンプー、ちょっとやさしめと強烈なのとあるんですけどどっちがいいですか?」「折角なので強烈な方で」というやり取りの末の激烈爽快シャンプーで洗われているときに、スースーと思った。気持ちがよかった。

そのおかげでおかーちゃんは分かったのだ。

「泣いていようが笑っていようが、娘そのものを預けるサービス」

これが理解できた。腑に落ちたと言ってもいい。美容室の人は誰もおかーちゃんに泣いている娘をなんとかしろとは責めないし、「泣き止ませられないんでやっぱりここはおかーちゃんお願いします」と娘を連れて来たりもしない。ベビーカーに乗せた赤子を横付けさせて施術を受け、要事の際には赤子の面倒を見なくていい。そういうサービスで料金で経営なのだというスタンスだと理解できた。

おかーちゃんが呪われているほど、世界はおかーちゃんを責めてはいないんだろう。

 

まあ責める人もいるんだろうけど、ラッキーなことに、わたしは今のところ出くわしたことはない。やはりヤンキーの魂の命じるまま、チャラついた髪色でオラついているのがいいのかもしれない。

でも産前の自分の声は、見えない世界が責める声の一端になっている気はする。産前、妊娠前、子供が好きではなく、子供が苦手で、外で泣いている子供がいたら顔を曇らせていた少し前までの自分の声が、おかーちゃんになった自分を責めているのは皮肉だし、知らなかった自分を責めるのは不毛だ。今は外で子供が泣いていても「まあ元気な子」と感心し、保護者の方には「ご苦労様です」と声をかけるぐらいには変わったので、外でギャン泣きした娘を抱えた自分にも「まあまあそうテンパるなよ」と言ってやろうと思う。

ありがたくも娘、今のところは外ではあんまり泣かないんだが。

 

そう、外面がよく、他人には愛想を振りまきまくりご機嫌MAXの娘、無事3時間強の施術を終えて迎えに行ったら、他の子は昼寝をしている中で1人起きたため、1人で保育士さんを独占し、大変なご機嫌ぶりであった。

思えば娘には兄弟がなく、年の近い友人もなく、常におかーちゃんとマンツーマン、週末はおとーちゃんおかーちゃんの2人がかりで構われ、帰省すればじじばば叔母にかわいいかわいいと褒められ、ファミリーサポートに預けてもご夫婦でやられているので2人がかりで遊んでもらい……と、オールウェイズフルタイムお世話してくれる大人独占、いつでもどこでもわたしが一番、第一子長女両家初孫の権力を振りかざしてブイブイ言わせている女なので、誰かと大人を取り合った経験がほぼない。キッズルームで他の男の子2人と保育士さんを取り合ったんだろう経験はなるほど「ああ……だからさっき外なのにギャン泣きしてたんでしょ君……」とおかーちゃんに思わせるのに充分だった。

そんな構われ富豪の娘、おかーちゃんとお盆休みのおとーちゃん、義実家のじじばば叔母に構われまくった超絶スペシャルお得デイズは本日めでたく終了、明日から一週間ぶりにおかーちゃんとマンツーマンの日々が始まる。多分荒れるんだろうな……と今から遠い目になる。

彼女の魂もまた、きっとヤンキーに違いないので。

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いい夏休みだったよ。